「渋沢くん、お誕生日おめでとう」

、ありがとう」

「全然15歳って感じじゃないよね」
「その言葉、今日で聞き飽きたよ」









「克朗くん、お誕生日おめでとう」

「ありがとう。より一足早く成人だ」

「顔はとっくに成人してるけどね」
「今日散々言われたよ」









「…もしもし?です。克っちゃん、25歳の誕生日おめでとう。忙しいのにごめんね、おやすみなさい。」



『さっき留守電聞いたよ。わざわざありがとう。また連絡する。』








10年以上、あの人の誕生日を祝ってきたんだなあ。今思えば、私はなんて健気な女の子だったんだろう。

私にとって渋沢克朗という男の誕生日は特別で、私が誕生日を祝うことも特別だと思ってた。
けれど、渋沢克朗という男にとっては、誕生日は特別でも私に祝ってもらうのは特別じゃなかったのかもしれない。

中学生の頃から彼の周りにはたくさんの人がいて、いつも眩しかった。誕生日には毎年みんなでお祝いしてたのを知ってる。だから彼にとっては私からのお祝いよりもみんなからのお祝いのほうが特別だったんじゃないかなあ。

「あ、」

昔のことに思いを馳せてるうちに部屋の時計が午前0時をさした。
そろそろ寝ようと携帯片手に布団に潜り込むと一件の新着メール。私の誕生日でもないのに誰だろう?


新着Eメール:渋沢克朗


え、なんで?目を疑った。寝ようと意気込んだのに寝れないじゃん。布団の上で正座し、ばくばくする心臓を落ち着かせようと大きく深呼吸。見たいような、見たくないような。画面をタッチしてメールを開く。

枕元。

ただそれだけだった。枕元?間違って送ったのかなと疑いつつも素直に枕元を確認する私はやっぱり健気な女の子だ。枕をどけると今度は一枚の手紙。
まさか、まさか、これは。丁寧に封がされた手紙を恐る恐る開く。




今日も一日お疲れ様。
自分で言うことじゃないんだが、今日は誕生日だ。
もう30のおじさんになる。
よく考えてみると、15、6年前からに祝ってもらってるんだな。
大学を卒業してから忙しくて、お互い直接会って祝うことが少なくなったと思う。

でも、やっぱりに祝われるのは特別なんだ。
10年後も20年後も30年後も一緒に歳を重ねていきたい。

伝えたいことがあるから、今日は急いで帰宅する。
自分の誕生日をもっと特別な日にしたいんだ。30代最初の俺のわがままを聞いてほしい。


「10年後も20年後もって、なにこれ…プロポーズじゃん」

ああ、どうしよう。顔がにやける。もう一回手紙を読んで幸せを噛みしめる。いや、噛みしめるのはまだ早いかな。だってあの人が帰ってきたら、きっと。

よし、寝てる暇はない。まずはこのキングサイズのベッドのシーツを洗濯して、部屋を片付けて。朝になったら豆大福が大人気のあのお店に並びにいって、そのままごちそうの材料を買いにいこう。せっかく帰ってきてくれるんだからほんのり化粧もしないと。

帰ってきたら最高の笑顔でおかえりって言ったら、彼も笑ってただいまって言うだろうから、生まれてきてありがとうって言って思いっきり抱きついてやろう。

こんなにもわくわくする誕生日は久しぶりかも。やっぱり何十年経とうと特別なものは変わらないんだね。もし、彼がいいよって言ってくれるなら私は10年後の今日もこうしていたい。もちろん20年後も30年後も、二人で笑い合えてたら素敵だなあって。



(で、伝えたいことって?)
(俺と結婚してほしい)
(…うん、)
(10年後の今日も100年後の今日もが俺の隣にいてほしいんだ)
(100年後は、わかんないね)



克っちゃん、30歳の誕生日おめでとう。そして、ありがとう。
長年隣にいたから思うけど、ようやく歳が顔に追いついたね。

こんな幸せを何十年先までよろしくね、克っちゃん。